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No Triathlon No Life...|白戸太朗の裏ワザ的トライアスロンライフ

Vol.09「幕張、蒲郡、村上──秋のエリートレースに学ぶコト。」

トライアスロン関係者にとって今年の秋は忙しかった。オリンピックが明けた9月は幕張、蒲郡、村上とジャパンカップの連続。中でも18日から20日は、キッズ大会、高校生大会。幕張大会と3連戦。その後も、銚子スプリントや日本選手権と目白押し。一般のアスリートが参加できる大会は少ないとはいえ、業界にとっては大きなレース。関係者はもちろん、選手も大変だっただろう。 こういう連戦になったとき、波に乗っている選手は最高だが、一度リズムを崩した選手は地獄。毎週、毎週厳しいレースが続く……。

一般の選手には連戦という経験はあまりないかもしれないが、体調がすぐれないときにレースを迎える心境を思い出してほしい。そんなときまず必要なのは原因の究明。なぜ身体が動かないのか? 身体の疲れか? 特定の筋肉の問題なのか? フォームや道具にも原因はないのか? 生活や精神的な問題はないか? ひとつ一つ自分に問いかけてみる。こんな場合、いつもの自分を知っている人がいると相談できて気分的にも楽である。それはコーチでなくても、練習仲間や家族でもいい。 実は根本的な原因が分からなくても、この作業だけでスッキリするもの。 そして、ときには思い切った手段も有効だ。レース直前1週間、まったく練習を止めるとか、不調な種目の練習だけに取り組むなど、いつもは行わない極端な方法もたまにやると効果があったりする。
いずれにせよどんなレベルの選手でも、調子と体調の波はある。そうした波があってこそ、いいパフォーマンスが発揮できるときもあるわけだから、調子が下がっていることを嘆かない気持が一番大切なのではないだろうか。
オリンピアンたちの恩返し!?

さて、秋の連戦のさなか、日本を代表する3人が厳しい体調ながら頑張っているのを見てうれしくなった。幕張では中西真知子が、蒲郡では西内洋行、関根明子がオリンピック後の体調不良にもかかわらず、その走りを見せてくれたのである。オリンピックという大きな目標に向けてそれぞれがものすごい努力をしてきたことは言うまでもない。もちろんそこに調子を合わせてきただろう。上げた調子は落ちるのは当然。精神的にも、その反動が一気に出てしまう。 私もよくシーズンオフに入り緊張感がなくなったとたんに風邪を引くということがあった。目標が大きく、プレッシャーも大きかったからこそ、その反動も調子の波も大きい。その例に漏れず、3人のコンディションは悪そうだった。そんな状態でレースに出るべきではないという考え方もある。確かにこういうときに故障やケガに結びついたりするし、情けない姿を観衆に見せるべきではないのかもしれない。それに、競技は自身のためにやっているのであり、他人やスポンサーのためにやっているわけでもないので、強制させられる種のものでもないだろう。しかし、今の彼らにはファンに恩返しするという責任がある。彼らは、日本のトライアスロンを代表してあの場に立った。日本中のトライアスリートが5人を応援していたはずだし、そんな人々がいてこそ競技団体があり、派遣されることにもなった。そしてファンは、やはり彼らが走っているのを観たいというのが正直なところ。「私は五輪で頑張りました。疲れましたらから次回に」というのは間違ってはいないが、寂しい話である。

そして3人は走った。中西はトレーニング拠点でもある千葉で快走を見せ優勝。関根も西内も日本開催のワールドカップを大いに盛り上げてくれた。成績の問題ではない。ここは、そんな状態の中でちゃんと走ったということを大いに評価したい。 よく、「アイアンマンとワールドカップ(51.5km)は別物だから……」と興味を示さないトライアスリートの声も耳にするが、3種目の極限に挑んでいる彼らの動きは理屈抜きに美しい。そんな彼らの走りを間近で見た人は参考にもなるし、感心したはず。そして、彼らの真摯な姿勢は我々に強く訴えかけてくる。レースを観た帰りの電車の中で、「明日からは練習しよう!」と決意を新たにしたのは私だけではなかったはずだ。 オリンピアンからアイアンマンまで、多くのアスリートが日本トライアスロンの歴史を作っている。歴史は時間がたてば自然と積み重ねられるが、「伝統」は意識して作らないと形成されない。レースの距離やカテゴリーに関わらず、トップアスリートが率先して、自らの経験を一般の競技者や観衆に伝えていくことこそが必要なのだ。 日本にこの競技が入り20数年。伝統が効いてくるのはこれからだ。