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No Triathlon No Life...|Back Number

No Triathlon No Life...|白戸太朗の裏ワザ的トライアスロンライフ

Vol.10「だからハワイはやめられない。」

延々と続く折り返しまでの上り、おまけにスタート直後から続く向かい風。いつものようにハワイでは、単調なバイクコースを風が演出してくれた。ときにちょっと演出過剰で、今年はまさにそんな感じ。どこを走っても向かい風で、下を向きながら笑ってしまった。文句や我慢を通り越したら、笑うしかない。ホント、高いエントリーフィーに見合って、いろいろなエンターテイメントを仕込んでくれる!? 演出といえば、今年のハワイはパーティー関連にテコ入れをしてあった。見慣れた者でさえ、ついステージを見てしまうほど。パーティーだけではない、受付方法からトランジット位置まで、必要と思われる改善はどんどん進める。ここまで完成された大会でも止まることなく、常に進歩させていく。この姿勢こそが本大会を常に世界の頂点に位置づけ続けさせるのであろう。

ところで今年のアイアンマン、個人的にはうまくまとめることができた。「練習もしないのに!」と周囲からは驚かれるが、一応、9月は多少やっていたと書かせてもらおう(自慢できるほどではないのだが…?)。ともあれ、最後まできっちり走れた理由はズバリ「自制心」、言い換えるならガマンすることだ。我慢といっても苦しくなった後半に耐えることではない。いかに前半、ガンガン行きたくなる気持ちを抑えるか。 私のパターンとして、得意のスイムでいい位置に上がるので、バイク前半にはかなりの選手に抜かれることになる。そこで、いつもなら多少のあせりと、負けず嫌いが刺激され、ついついペースアップ。これこそがハワイでの最大の敵。分かっていても、ハワイの雰囲気と、気合の入った多くの選手たちが視界に入り、高揚した気持ちを抑えるのは至難の業だ。これで後半ボロボロになっている選手を見てきているし、自身も失速した辛い経験も。練習量に自信があるならともかく、現状では無理は禁物。つぶれたランは本当に長いのだ。ここでは周りに惑わされず、あくまでもマイペース。「行きたい人はどうぞ!」という姿勢を貫く。 たとえ上りであっても、無理に踏み込むことなく、軽く回して行くことを心がける。確かにそのときは順位を落とすが、150kmを超えた後半もそのペースが維持できるので、抜かれた選手に追いつくことも少なくない。そう、アイアンマンはフィニッシュするまでが勝負、途中に妙な負けん気を出してはいけない。勝ちを狙う若い選手ならともかく、一般選手はやはり「自分のペースを守る」というのがアイアンマンいやトライアスロンの基本。競技暦18年目にして再び「ふりだし」に戻ってきたようだ。最近トライスロンがうまくいかないとお悩みのあなた、ちょっと思い当たる節はありませんか? 「この瞬間、生きていることでたくさんだ」

さて、上りでヨタヨタと走っている私に抜かれる選手が見えてきた。「コイツも前半飛ばし過ぎか」と思って見るも、意外にペダリングは決まっている。抜き去り際に顔を見るとなんとスコット・モリーナ! 偉大なる過去のチャンピオンである(※1)。90年頃、一緒に練習させてもらっただけでワクワクしたものだ。思わず声を掛けると、「オイ、俺を置いて行くなよ!」と笑っている。「勝負に関係なく、アイアンマンを楽しんでいたいんだ」と憎いコメント。それでも200位前後を走っているのはさすがだ。 そういえば、数年前に大きなランニングパンツをはいて軽快な走りをしていたおじさんに抜かれたことがある。その人は抜いた後で振り返って、にっこり笑い「タロー」と一言。そのときにやっとスコット・ティンリー(※2)だということに気づいた。モリーナ、ティンリーがいまだにハワイに出場していることはあまり知られていない(今年のティンリーは観戦だったが)。決して速いわけではないが昔以上にアイアンマンを楽しんでいるのは確か。デイブ・スコットやマーク・アレンのように、勝負できないときは出場しないほうがイメージは保たれるが、彼らはにはそんな気はさらさらないよう。ほんとカッコいいオヤジどもである。

それにしてもハワイ島の海は美しい。折り返しをまわって下りに入ると眼下に大きな青い海が広がる。「なんと大洋の美しいことよ! なんと大空の澄んでいることか! 点のような太陽! 何事がおころうと、この瞬間、生きていることでたくさんだ」とは飛行家リンドバーグの言葉だが、まさにそんな気分。ペースや順位がどうであれ、このロケーションでレースしていることだけで十分、ほかに何がいる? やはり、ハワイはやめられない!